茜色コンフィチュール

 作品概要

「水色エーテル」に続く、黒霧操さん2冊目の百合姫コミックス。
百合姫に掲載された短編5本に加え、
そのうちの1本の続編にあたる描き下ろしを収録しています。

少女漫画的な可愛らしい絵柄で、
女の子達の揺れ動く心を瑞々しく表現しています。

普通の女の子らしい心理描写の中にも黒い感情が見え隠れすることがあり、
純粋さと紙一重の危うさが、収録作品の多くに共通する持ち味です。
しかし決して奇をてらったようなショッキングな展開になることはなく、
あくまで少女達の日常の1ページとして描かれています。

 収録作品紹介

収録作品のあらすじや感想を簡単に紹介します。

金色(ヴィーナス)のカノジョ

純朴で不器用な少女・のぞみは、
何でもできて人気者の転校生・美留に密かに憧れていました。
ある時、ひょんなことから2人で話をする機会を得たのぞみは、
美留と少しずつ仲良くなっていきます。

内気な女の子の内面を、
天体の動きになぞらえながら丁寧に綴った作品です。
収録作品の中ではあまり暗い要素のない爽やかな作品で、
2人の結末も読者の想像に委ねられているなど、希望を感じさせる内容になっています。

零れ桜

収録作品の中で唯一現代以外を舞台にした作品で、大正時代ものです。
お嬢様のさゆりと女中のマチは、互いに幼い頃からの遊び相手でもあり、
今では強い絆で結ばれています。
しかしさゆりには親の決めた縁談が舞い込み、マチは複雑な想いにとらわれます。

親の決めた男との結婚が障害として立ちふさがるのは、
大正時代ものの百合ものとしてはいわばお約束かもしれません。
「花物語」の頃からすでに定番であり、
百合姫の掲載作品にも時々見られることがあります。

しかし決して運命を悲観して自暴自棄になることなく、
運命を受け入れたうえで前向きに振舞い、
別れることになると知りつつも「身も心も結ばれた」シーンが印象的です。

in the closet…

奈緒は、密かに想いを寄せる幼馴染のリカにそっくりな人形を
クローゼットの中に隠して愛でていました。
しかしある時からリカは急に派手な髪や服装をするようになり、
奈緒は人形を見られたのが原因ではないかと疑いだすのですが・・・。

幼馴染にそっくりな人形を可愛がる主人公からちょっと危ない衝動を感じますが、
幼馴染がちょっと天然なこともあって、
全体的には意外なほど明るい作風となっています。
根底にある後ろめたい感情を隠したまま、表面的には終始明るくストーリーが進むのは、
収録作品に共通する傾向かもしれません。

シガレット≠チョコレイト

社会人の茅と、大学生の真美はルームメイト。
真美の恋の話をいつものごとく聞き流す茅でしたが、
なんと真美が今回好きになった相手は女の子でした。
しかしその子にはすでに彼氏がいて・・・。

予想どおりというかお約束というか、茅は実は真美のことが好きです。
しかしそれを最後まで表に出さずあくまで親友・ルームメイトとして振舞うのは、
茅がすでに大人だからなのか、それとも現在の関係が心地良いからなのでしょうか。

溺れる金魚

地味めでおとなしい望子(もこ)は、派手めで自分とは違うタイプに見える梨沙と、
自分でもよくわからない理由で側にいたくなってしまいます。
あることをきっかけに、これまでそっけなかった梨沙が親しくしてくれるようになるのですが、
望子はなぜかかえって物足りなさを感じ始め・・・。

主人公が想い人と仲良くなってハッピーエンドかと思いきや、
むしろ自分からそれを拒否するというちょっと異様な展開です。
冷たく見下されるのが心地良い・・・という、少し危うい感情が描かれています。
とはいえ決して誇張されたギャグのような描写にはならず、
あくまで主人公の隠された内面の一部として表現されています。
決して表には出さない、内面だけで展開される暗い衝動は
作者の他の作品にも見られるテーマです。

茜色プロムナード

単行本での描き下ろしで、「シガレット≠チョコレイト」の続編です。
茅が夜に飲み屋でバイトを始めたことをきっかけに、
真美と一緒にいられる時間が減ってしまい、2人の関係にちょっとした変化が現われます。

茅は相変わらず真美への好意を表には出しませんが、
真美がさりげなく茅に「好き」と言う場面があります。
恋愛的な意味ではないようですが、
現在の2人の関係の居心地の良さを感じさせるとともに、
これからの進展に希望を感じさせる内容になっています。


最終更新:2012/09/20
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