さくら文通

 作品概要

百合姫にときどき作品を発表していた、
ヒマワリソウヤ(日輪早夜)さんの作品集。

収録作はかなりバラエティに富んでおり、
普通の現代ものから、「花物語」を彷彿とさせる大正時代の女学校もの、
ちょっとファンタジーっぽい設定のもの、果ては西洋騎士ものなど、多種多様です。
ジャンルはそれぞれ異なるものの、
爽やかで心温まるストーリーが多いという点では共通性も見られます。

また、収録作品の執筆時期にはかなり幅があり、
百合姉妹時代のものから、比較的最近の百合姫に掲載されたもの、
そして単行本化にあたっての描きおろしまで、
ヒマワリソウヤさんのタッチの変化を感じることができます。

 収録作品紹介

収録作品のあらすじとみどころを簡単に紹介します。

コスモスの咲く庭

夏休みに田舎に遊びに来ていた美夜子は、
偶然見つけた洋館の庭で、雛という幽霊の少女と出会います。
美夜子は雛のもとにたびたび足を運ぶようになり、
2人は仲良くなっていくのですが、ある日、
雛の姿が徐々に消えていってしまい・・・。

少女2人のひと夏の出会いといった感じの爽やかなお話。
楽しい思い出を作れたことで、
最後は未練がなくなって成仏・・・という幽霊ものにありがちなオチかと思いきや、
ちょっと意外なハッピーエンドが待っています。

ご主人様と一緒

人間に愛されるために生まれた、人型の愛玩動物「PET」。
お嬢様のもとにやってきた、「うさぎ」と名付けられたPETは、
ドジながらもお嬢様に愛されるために頑張ります。

強気だけどちょっと寂しがりなお嬢様と、PETの女の子の、
恋愛というよりは可愛らしくて微笑ましい感じの関係を描いた作品。
最後に、PETに関する意外とアダルトな設定が明らかになりますが、
どうせなら行くところまで行ってほしかった気も・・・?

くちなし

平凡な女学生である鈴乃は、
ふとしたことから皆の憧れの的である咲子と親しくなります。
鈴乃が勇気を出して気持ちを伝え、2人がいよいよ親密になった矢先、
咲子が許婚との結婚により学校を去るという話が持ち上がります。

吉屋信子さんの花物語を彷彿とさせる、
大正時代の女学校を舞台にした「エス」的な作品。
可憐な香りを持ちつつも実をつけないという八重梔子(やえくちなし)をモチーフに、
2人の少女の美しくも儚い恋を描いています。

さくら文通

桜子はある日、どこからか飛んできた差出人不明の恋文を受取ります。
桜子は手紙で指定されたとおりに
桜の木の洞を通して手紙のやりとりをするようになり、
そしてやがて、2人は直接会う約束を交わします。

このコミックスの表題作。
こちらも大正時代もので、
ページ数こそ少ないですが大正浪漫的な雰囲気作りにはこだわりが見られます。
手紙の主は最後にならないと明かされませんが、
ほとんどの読者には予想どおりなのでむしろ微笑ましい感じ
(そもそも名前のあるキャラが主人公を除くとその人しかいないので・・・)。

晴れに舞う雪

幼い頃から姫に仕える女性騎士ルイーズは、
姫とは身分を超えた強い絆で結ばれています。
しかし、忙しくて会えないのが原因で最近姫はご機嫌斜め。
そのうえルイーズは侍女のクレアとの浮気(?)を疑われてしまい・・・

バラエティ豊かなこのコミックスの中でも特に異彩を放つ、中世騎士もの。
勘違いとはいえ三角関係っぽい要素があるのも特徴かもしれません。

星に願いを

いつも一緒だった美琴、鳥子、成美の3人。
成美が事故で死んでから初めての夏、
美琴と鳥子はかつて3人でそうしたように、夜の星座を見上げるのですが・・・。

収録作の中で一番古い、百合姫時代の作品。
人の死という重い出来事を扱っているものの、
最後はそれを乗り越え前へと進む前向きな思いが描かれています。

さくら文通 アナザーストーリー

美樹の下駄箱に、ある日差出人不明の手紙が。
差出人の名前はありませんが、
美樹の頭には小学校からの友人である花菜の顔が浮かびます。

「さくら文通」の現代版といった感じの作品で、
やはり文通を扱ったストーリーになっています。
コミックスの表紙に描かれているのは実は「さくら文通」ではなくこちらの作品の2人です。
最初から手紙の相手についてほぼ見当がついていたり、
最初は普通の文通だったのが徐々に恋愛的な内容になっていくという点で
元の「さくら文通」とは微妙にニュアンスの異なる、微笑ましいストーリーになっています。

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