水色エーテル

 作品概要

現在(2012年時点)も百合姫にレギュラーで参加している、黒霧操さんによる短編集。

普通の女の子たちの何気ない日常の中に、繊細で不安定な心を丁寧に描写しています。
一方で必ずしもハッピーエンドとはいえないお話が多く、
時に悲しい出来事があったり、暗い葛藤が描かれることも。

しかしそれらを必要以上に強調することなく、
自分なりに現実を受け入れつつ前向きに生きようとする強さを
どの作品からも感じることができます。
決して優しくない現実の中でも明るさと強さを感じる作風は、
黒霧操さんさんの2冊目のコミックス「茜色コンフィチュール」にも踏襲されています。

 収録作品紹介

収録作品のあらすじや感想を簡単に紹介します。

春待メランコリィ

春から進路のために上京するいち子を笑顔で祝福しながらも、
親友のひと美は、内心では春なんて来なければいいのにと願います。

自分の中の暗い気持ちを押し隠しながらあくまで明るく振舞うひと美に、
別れの中にも未来を感じる、爽やかな作品です。
自分の気持ちを押し通すばかりが恋ではない、ということなのかもしれません。

この胸の花

女の子どうしでありながら恋人の結花と小夜に、
結花の祖母・みつは、かつて自分が女の子に恋していた頃の思い出を語り聞かせます。

みつの回想シーンがメインで、
正確な時代は不明ですが「花物語」のようなエス的な雰囲気が漂っています。
親の決めた男との結婚が障害になるのはこの手のお話のお約束ですが、
安易な方法で現実から逃げないのは
他の収録作品の主人公にも共通する強さだと思います。
みつの若き日の話を聞いて、現在を生きている結花と小夜はどんな選択をするのでしょうか。

ココロペンダント

幼馴染の豊と愛梨は、おそろいのペンダントをずっと付けて来ました。
しかし、彼氏ができた愛梨がペンダントを外していることに気づいた豊は・・・。

彼氏がいるとはいえ愛梨は決して豊に悪意があるわけではなく、
これまでどおり豊に「一番好き」と言ってくれています。
求める「好き」の意味が違うというのはある種普遍的なテーマですね。
最終的に豊は「どんな形でも側にいられるなら」と
親友のままでいることを選んでいますが、
このような決断を報われない親友の側から描いた作品は
意外と珍しいのではないでしょうか。

嘘つきミルフィーユ

純朴な女の子・千里は、
美人のクラスメイト・葉子から突然声をかけられ、仲良くなっていきます。
葉子に憧れにも近い気持ちで親しみを感じていく千里でしたが、葉子の目的は・・・。

後半で明かされる葉子が千里に近づいた理由は、
千里の近くにいる男子のことが好きだったというもので、
百合漫画としてはあんまりなオチです。
それを知った千里が当てつけのようにその男子と付き合いだす結末も含め、
女の子どうしでは結ばれない話が多いこのコミックスの中でも異彩を放っています。
しかし前半の千里が葉子と仲良くなるまでの部分は、
千里が好意に近い気持ちを抱いているようにも見えます。
片思いで勘違いだったけど、これも一つの恋の形・・・だったのかもしれません。

水色コットン

一緒に音楽のレッスンを受けてきた怜美と空でしたが、
空は親の経済的事情で音楽をやめ、引っ越すことに。
引越し直前、2人は最後の演奏会に臨み見みます。

こちらも報われない恋を描いた作品です。
別離はやはり避けられないものとして描かれており、
登場人物たちもそれを前提に動いています。
悪い結末を変えるために奮闘する話は世の中に数多いですが、
結末は変えられないことを前提に、
それをどう受け入れるかに主眼が置かれた作品です。
この傾向は他の収録作品にも共通しています。

真珠の泪

手に入れれば素敵な恋ができるという「人魚の涙」。
偶然本物の人魚であるさらさと仲良くなった美波は、
自発的に涙を流してもらおうと色々な手を試します。

ファンタジーな設定や、
涙を流してもらうために一緒に映画鑑賞をするなどのユニークな展開もあって、
収録作品の中でもかなりライトな作風になっています。
そしておそらく唯一の、明確なハッピーエンドになっている作品です。
最後にちゃんと結ばれるのを新鮮に感じてしまうという、
ちょっと不思議な感覚でした。

月の欠片、刹那と永遠

学生時代から恋人だった幸子と瑞紀でしたが、
歌手としてデビューした幸子が忙しくなるにつれ、2人の気持ちはすれ違い始めます。

仕事と恋という普遍的ともいえるテーマを、
月をモチーフにした詩的な表現で描いています。
最後はやはり報われない終わり方になっており、
幸子に会えないことがつらくなった瑞紀が
いつの間にか彼氏を作ってしまうという苦い結末です。
最終的に結ばれるかどうかという結果自体よりも、
そこまでの気持ちの動きや、起こってしまった事実をどう感じるかに重点が置かれています。
このあたりはこの「水色エーテル」収録作品の個性を端的に現しているといえそうです。


最終更新:2012/09/26
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