終点のあの子

作品概要

プロテスタント系女子校に通う女の子達を主人公としたオムニバス。
デビュー作でもある「フォーゲットミー、ノットブルー」を第一話として、
それぞれ異なる視点・時系列によって描いた四編を収録しています。

設定上男性が関係する話もありますが、基本的に主要登場人物は全員女の子。
恋愛がテーマというわけではないものの、いずれのエピソードでも同性間の愛憎模様が物語の中核となっています。



収録作品のあらすじとみどころ

収録されている4作品のあらすじとみどころを簡単に紹介。

フォーゲットミー、ノットブルー

希代子(きよこ)は、有名なカメラマンを父に持つ朱里(あかり)に声をかけられ、よく一緒に過ごすようになります。 他のクラスメイトとはどこか違う存在感を放つ朱里に、心酔に近い気持ちを抱いていく希代子。 しかし、あるときから希代子は朱里が自分を含む周囲の人間を見下していると感じるようになり・・・。


前半の希代子の朱里への憧れ、そして後半の敵意に近い気持ちのギャップが強烈な作品。 相手のことをもっと知りたい、わかりあいたいという思いのすれ違いが切ない作品です。

朱里との対立の中で激しく反動する、いわゆるスクールカースト上の希代子の立場もみどころ?


甘夏

「フォーゲットミー、ノットブルー」で希代子の友人としてチラッとだけ出ていた、奈津子が主人公。

純朴であまり目立たない存在だった奈津子ですが、大人の世界に対する憧れは人一倍。 奈津子は夏休みを利用して、校則で禁止されているアルバイトを密かに始めます。


純粋な女の子のひと夏の冒険を描いた作品。 特定の相手ができるわけではないものの、バイト先での異性との出会いや淡い憧れなども描かれています。

同性の登場人物だと、バイト経験者として色々アドバイスしてくれる同級生ミッツー、 バイト先の先輩である中年女性・吉沢さんあたりが重要。タイトルにもなっている「甘夏」(蜜柑の一種)は吉沢さんが作中で奈津子にくれた物です。

同性に対する強い憧れ、そしてそれが次第に色あせていき失望に変わる過程。 この本に収録されている四編に共通するテーマが、この作品でも描かれています。


ふたりでいるのに無言で読書

おしゃれでクラスの中心的存在な恭子と、読書家で普段はオタクグループに属している早智子。 図書館で偶然出会ったのをきっかけに、2人の間に不思議な交流が生まれます。


四編のうちで唯一、複数の人物を主人公に据えた作品。 恭子と早智子の視点が交互に描かれます。

2人はまったく違うタイプですが、それゆえにお互いのことを素直に受け入れ、影響しあっているようです。 ただし後半は、この本の収録作の例に漏れない展開に・・・。


オイスターベイビー

大学四年生となった朱里。 芸術系の大学に通ってはいるものの、将来への不安が頭をよぎります。 そんなとき朱里がふと思い出したのは、高校一年の頃に自分を激しく攻撃した希代子のこと──。


「フォーゲットミー、ノットブルー」で重要な役割を担っていた朱里が主人公。

「フォーゲットミー、ノットブルー」内の朱里は他にはない存在感を持った特別な人であり、つかみどころのない人物として描かれていました。 対してこの「オイスターベイビー」では、朱里の視点から彼女の屈折した脆い内面が綴られています。

終盤にかけて、朱里の本心が怒涛の勢いで語られます。本のタイトルである「終点のあの子」の意味もここで初めて明らかになります。 朱里がこれまでに見せた不可解な言動に答えを示した描写も多く、四編を総括するような内容です。

これでは、あの立花希代子と一緒ではないか。

【中略】

彼女を駆り立てた熱の正体が、朱里にも少しずつわかり始めている。

(私のことを、知りたかったのかな)



最終更新:2015/6/21

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