号泣する準備はできていた

 あらすじ

千花と秋美は恋人どうし。
出会ってから3年、一緒に住んでからは1年になる。

2人はこれ以上ないくらい愛し合っている。
でも同時に、2人の関係はすでに行き止まりでもある。
女性同士だから、結婚も妊娠も、妊娠も堕胎もないのだ。
だからどんなに愛し合っても、これ以上前に進むことはできない。

そうだとしても、2人はただひたすら愛し合う。

 みどころ

江國香織さんの短編集です。直木賞を受賞しています。
15ページ前後の短いお話12話(それぞれ独立した、無関係な話)が収録されています。

いずれも何らかの形で恋愛に関するお話ですが、
失恋の話や過去の恋に関する話など、やや影のある話が多い気がします。


そんな中、収録作の一つ「熱帯夜」が女性同士のカップルを描いたお話です。
この本に収録されているお話の中では珍しく、
現在進行形の恋に関する、明るい話だと思います。

基本的に女性二人がひたすら愛を語り合う甘いお話ですが、
作中で「行き止まり」と表現されているように、
同性ゆえの限界のようなものも示唆されています。

ただ、この本に収録されている他のお話と同じく、非常に短いです。
約15ページしかありません。
短編ならではの良さという物もあるのでしょうが、
どうせならこの二人のもっと長い話を読んでみたい気もしますね。
(この本に収録されているお話全般に言えますが・・・。)


なお、この本の収録作はほぼ全て女性主人公の視点で描かれています。
はっきり百合と言えるのは「熱帯夜」だけですが、
女性どうし(友達とか、家族ですが)の関係にスポットを当てた作品もいくつかあります。
そのあたりをあえて百合っぽい視点から読んでみるのも面白いかもしれません。

ただ、主人公の年齢が30代後半〜40代と高めでであることが多く、
人によってはそのあたりをちょっと馴染みづらく感じるかもしれません。
中年女性が若い頃の恋を思い出すようなお話もあり、
読んでいるとちょっと切ない気持ちになりますね。

なお、表題作の「号泣する準備はできていた」は特に百合ではありません。

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