マテリアルキャンディ

 作品概要

「水色エーテル」「茜色コンフィチュール」に続く、
黒霧操さん3冊目の百合姫コミックス。
2012〜2013年頃に百合姫に執筆した作品をまとめた短編集です。

前2作において主人公が何らかの後ろ暗い衝動を抱いていたり、
影のある作風が多かったのと比べると、
今作は明るく素直で王道的な作品が増えたように感じられます。

 各エピソードのみどころ

インモールドガール

愛子は過去の経験から、周囲の行動から外れるのを極端に恐れています。
わざわざマニュアルまで自作し、他人に合わせる毎日。
しかし、同性である瀬奈からある日告白を受けたことで、
普通とはだいぶ違う毎日を送ることに・・・?


表紙イラストにも採用されている2人。
周囲からどう思われようと自分の気持ちを貫く、そんな強さが描かれています。
黒霧操さんの作品としては意外なほど王道で普遍的なテーマを扱っていますが、
マニュアルという小道具が作品の個性として活きています。

メタモルノイズ

いつか来るかもしれない幼馴染の麗(うらら)との別れにおびえ、
過去の思い出にとらわれ、大人になることを拒んでいる紀里(きり)。
麗はそんな紀里を現実と向き合わせようとします。


こちらも、幼馴染ものとしては極めて素直な展開の作品です。
「好き」という言葉のニュアンスの違いなど、
百合作品の王道中の王道ともいえるテーマを、
黒霧操さんなりのタッチで描いています。
現実と向き合うのは必ずしもつらいことではなく、
大人になることは必ずしも別れではない、そんな前向きな強さを持った作品です。

散華ノ傷跡

とあるお屋敷のお嬢様である日吉は、引き取られてきた子であるヤコと、
まるで本当の姉妹のように仲良く育ちます。
しかし、ヤコはやがて日吉以上に周囲の愛情を集めるようになり、
図らずも日吉のいろいろな物を奪っていきます。


正確な時代は不明ですが、あとがきによると「戦前もの」。
ドロドロの展開を予想させるあらすじですが、
時代柄もあってか日吉は基本的に家の決定に逆らわず、
終始達観したような静かな愛情でヤコを見つめています。

後半、今回の収録作品の中でも悲しい出来事がありますが、
日吉の成長もあり、心の中では希望を見いだせるような終わり方になっています。

彼岸の境界

幼馴染だったマオ、るか、葉月の3人。
しかし、るかは恋人でもあった葉月が事故で亡くなって以来、家にこもりがち。
大学の夏休みに久しぶりにるかに再会したマオは、
るかに過去を乗り越えて前に進ませようとしますが・・・。


過去との決別と成長という普遍的な物語の中にも、
毒を持つという植物「彼岸花」をモチーフとして取り入れ、
生と死の堺があいまいになったような危うさが描かれています。
ヒロインが和服なこともあり、現代劇としてはやや浮世離れした雰囲気を感じますが、
あとがきによれば「彼岸花」「和風」というテーマは担当者の発案のようです。
「頂いたテーマでどれだけ描けるか」という黒霧操さんの密かな挑戦だったとのこと。

チップドキャンディ

単行本での描きおろしで、「インモールドガール」の続編。
主に瀬奈の小学校時代を回想したものですが、
なんと愛子に会っており、その頃から好きだったという事実が明かされます。


冒頭でちょっとびっくりな告白がありつつも、
すっかり恋人となった愛子と瀬奈を明るく描いた後日談です。
2人の関係を周囲に話す直前というちょっとシリアスな時期のはずですが、
もう迷わない強さが2人から感じられます。


最終更新:2013/5/30
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